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Posted by 滋賀咲くブログ at

2016年07月10日

「和菓子のアンソロジー」

もしも和菓子を題材に短編小説を書くなら、どんなお菓子の話にしようか?

そんなことをつい考えてしまったのは、この短編集を読んだ後です。

「和菓子のアンソロジー」 坂木司他著

坂木司、日明恩、牧野修、近藤史恵、柴田よしき、木地雅映子、小川一水、恒川光太郎、北村薫、畠中恵、

と、以上十人が書かれた短編集です。どれも和菓子が出てきます。

日常の中の小さなミステリー、刑事もの、日本の未来を描くSFファンタジー、異国情緒あふれるもの、ほろりとさせられる恋愛もの、等々中身は様々です。

心がちょっと疲れたなあ、と思った時にどうぞ読んでみて下さい。まさに甘い物を食べたあとのように、ほっこりして、少し元気がでるかもしれませんよ。

そして、中に出てくる和菓子が食べたくなるかも…。

「迷宮の松露」というお話があるのですが、私はここに出てくる「松露」といお菓子が無性に食べたくなりました。

「チチとクズの国」というお話の中には、「水まんじゅう」がでてきます。ありますよ、当店に(笑)。

「くず桜」という名前ですが。



もしも私が和菓子を題材に短編小説を書くなら、たぶん迷わず桜餅を選ぶと思います。さて、どんなお話にしましょうか…。

ホームページはこちらです。

  


Posted by 藤本屋 at 11:56Comments(0)和菓子本

2016年06月24日

茨木のり子詩集

自らに喝を入れたようなタイトルのこの詩集。

この中の「落ちこぼれ」という詩を紹介します。


落ちこぼれ

 和菓子の名につけたいようなやさしさ

落ちこぼれ

 いまは自嘲や出来そこないの謂(いい)

落ちこぼれないための

 ばかばかしくも切ない修業

落ちこぼれにこそ

 魅力も風合いも薫るのに

落ちこぼれの実

 いっぱい包容できるのが豊かな大地

それならお前が落ちこぼれろ

 はい 女としてはとっくに落ちこぼれ

落ちこぼれずに旨げに成って

 むざむざ食われてなるものか

落ちこぼれ

 結果ではなく

落ちこぼれ

 華々しい意志であれ


なんと勇ましい詩でしょうか。人を測る物差しの小ささや、ジェンダー的なものへの抗い、そんなものが込められているような気がします。

なのに「落ちこぼれ」「落ちこぼれ」と口にしているうちに、「落ちこぼれ」がなんだかコロンとしたかわいらしいお菓子みたいに思えてきました。これを和菓子にするなら、どんな素材で、どんな形で、どんな色で形作ろう…。頭の中で想像してみました。

小さくかわいらしいお菓子が出来ました。私の中で。小さくても意志のある形、色。そして口当たりはちょっと歯ごたえのある感じ。



せっかくなので、この詩集の表題作も紹介します。


「自分の感受性くらい」


ぱさぱさに乾いてゆく心を

ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて


気難しくなってきたのを

友人のせいにはするな

しなやかさを失ったのはどちらなのか


苛立つのを

近親のせいにはするな

なにもかも下手だったのはわたくし


初心消えかかるのを

暮しのせいにはするな

そもそもが ひよわな志にすぎなかった


駄目なことの一切を

時代のせいにはするな

わずかに光る尊厳の放棄


自分の感受性くらい

自分で守れ

ばかものよ


たしか中学か高校の教科書に載っていたので、ご存知の方も多いはず。

改めて読むと、叱咤されますね。心地よく。


  


Posted by 藤本屋 at 16:05Comments(0)和菓子本

2016年06月10日

ドリアン助川「あん」

日がな一日本を読んでいたい。それが私の願望です。かないませんが…。


本が好きです。特に小説を多く読みます。

図書館や本屋さんで、タイトルに和菓子に関する言葉が入っているものを見つけると、ぴたっと足が止まります。

そのぴたっと足を止められた数々の本をこれからご紹介していきたいと思います。

ほんのお一人でもその和菓子小説を読んで、和菓子そのものに興味をもってもらえたら…。

それでもって、当店に足を運んでいただけたらどんなに嬉しいだろう…。

そんなよこしまな思いもございます。申し訳ございません。


さて、第一回目は映画化もされたこちら。

『あん』



映画で樹木希林さんが扮する主人公が、生涯あん(餡)を丁寧に炊き続け生きてきた。ざっくり言うとそんなお話です。
そこには表紙にもあるように、どら焼きが出てきます。
どら焼き店の店長が、主人公のおばあさんにあんこの炊き方を教わるシーン。汗の流れる様子が手に取るように伝わってきます。そしてどら焼きの焼けるいい香りが、読みながら鼻をくすぐるようでした。

この物語はハンセン病について語られています。正直詳しい知識のない私には、どこか遠い話のように思えてしまったのですが、本の裏表紙にあった言葉「生きる意味とはなにか」に集約されている、深い作者の思いが伝わってきます。


当店にも当然ながら「あん」があります。
ただの「あん」ではあるけれど、時には誰かの特別な「あん」になるのかもしれないなと、うれしくもあり、身の引き締まる思いにもなります。

和菓子に興味のある方もない方も、樹木希林さんのファンの方もそうでない方も、是非読んで頂きたい一冊です。
この映画化にあたり、主人公の徳江さんは樹木希林さん以外に考えられなかったのではないかと思うほど、ドンピシャのキャストだと思います。映画見てないですが…(笑)

どら焼き、食べたくなってきました。残念ながら当店では作ってないのです。残念!

ホームページはこちらです。



  


Posted by 藤本屋 at 19:06Comments(0)和菓子本